先に書いておきますが、
このレポート記事は、作品中のセリフを僕なりに解説していくという性格上、盛大にネタバレします。
それが嫌な方は、ぜひ最初に作品を読んで、このレポート記事に帰ってきてください。
僕と体をフルフル震わせながら、感動を共有しましょう。

あらすじ

猫と人間、それぞれの愛と友情の物語。
ひょんなことから、長距離トラックで東京にきてしまった黒猫ルドルフ。土地のボス猫と出会い、このイッパイアッテナとの愉快なノラ猫生活がはじまった……。

青少年読書感想文全国コンクール課題図書/第27回講談社児童文学新人賞

映画『ルドルフとイッパイアッテナ』公式サイト

映画『ルドルフとイッパイアッテナ』公式サイト

上に書いたあらすじは、講談社の書籍紹介ページから転載したものなんですが、

軽い!!あまりにも軽い!!
これだけじゃ、もしかしたら買わない人が出てきてしまうかもしれない!俺にあらすじを書かせろ!2000文字ぐらいで濃厚に書いてやる!

取り乱しましたが、本当に素晴らしい作品です。
児童文学という括りで見た場合、そのクオリティの高さに驚愕します。
ストーリーの構成も素晴らしく、
特にクライマックスにかけて怒涛の盛り上がり方を見せます。

一応2016年に公開される映画の予告編も貼っておきます。

『ルドルフとイッパイアッテナ』特報 - YouTube

youtu.be

2016年8月公開 公式サイト:http://www.rudolf-ippaiattena.com/ (C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会

そしてこの作品において、
何よりも重要な要素が「教育」なんです。
酸いも甘いもたくさん経験してきた百戦錬磨のボス猫が、純真で小さな黒猫に、人生(猫生というべきか)を強く生き抜くための術を教えていくという、子供の教育にとってうってつけの児童書だと言えます。

ボス猫のイッパイアッテナは、世の父親が秒速で弟子入りを申し出るぐらい、男気の溢れたナイスガイなので、今回のレポートでは、彼が黒猫ルドルフに示した名言、そして彼を慕うルドルフの純真すぎる名言の数々を、ストーリーを追いながら紐解いていきましょう。

「こわいから、ししゃもを置いていくんだ。」

ルドルフがイッパイアッテナと初対面するシーンで、ルドルフが言うセリフです。
誤って東京行きのトラックに乗り込んでしまい、大都会で途方にくれていたルドルフの前に、イッパイアッテナが現れ、ルドルフが持っているシシャモを寄こせと凄む場面です。

「おい、これからどこへいくんだ。」

「どこだって、あんたの知ったことじゃない。ししゃもはやったんだ。さあ、もういいだろ。

「そんなでけえ口たていて、おめえ、おれがこわくないのか。」

「こわいから、ししゃもを置いていくんだ。それでもんくはないだろ」

ただのカツアゲの場面のやりとりに見えますが、僕はこのルドルフの返答が、この作品における「ルドルフ」という主人公の性格を表すのに十分な言葉だと感じました。

怖いからししゃもを置いた。
この場面で、これほど正直な返答はないわけで、こう言われると、それ以上の追い討ちをかけるのは野暮ってもんです。
人が生きていく上で、自分より力があるものに虐げられることもあるでしょう。
そんなとき、怖がるのは恥ずかしいことでない、というのを、いきなりルドルフに教えられます。

ちなみにいまさらですが、
イッパイアッテナという名前の由来は、下記のやりとりの通りです。

「ハハハ、ほんとうにへんなやつだ。おまえ、名まえはなんていうんだ。」

「ぼくはルドルフだ。あんたは?」

「おれか。おれの名まえは、いっぱいあってな。」

「えっ、イッパイアッテナっていう名まえなのかい。」

「そうじゃない。」

ルドルフ、愛くるしすぎるよ!

映画『ルドルフとイッパイアッテナ』公式サイト

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「黒ねこがえんぎが悪いなんて迷信だ。そんなことをいまどき信じるのは、教養がねえしょうこさ。」

二匹は行動を共にするようになります。
イッパイアッテナは人間たちから食料を調達する術に長けているんですね。
そんなある日、シチューをGETするために向かった小学校の給食室で、ルドルフはおばさんに「えんぎが悪い」と言われてしまいます。

「あれ、きょうはへんなチビもいっしょだよ。ありゃ、まっ黒なねこだ。黒ねこだよ。いやだね。えんぎが悪いよ。」

-中略-

「ほっとけよ。なんていわれたっていいじゃないか。黒ねこがえんぎが悪いなんて迷信だ。そんなことをいまどき信じてるのは、教養がねえしょうこさ。」

この作品の中で、イッパイアッテナは「教養」という言葉をたくさん使います。
この教養には、たくさんの意味が込められているのですが、それはストーリーを読み進めていけばわかります。
この場面では、なんの根拠もない迷信で他人を判断するおばさんを「教養がない」と一刀両断しています。

物事を判断できる「知識」を身につけるんだ、という、イッパイアッテナの明確なメッセージが読み取れますね。
それにしても、サンタクロースを信じている年頃の子供読者に向けて、迷信をまっこうから否定するスタイルのイッパイアッテナ先生。突き抜けています。

「ことばを乱暴にしたり下品にしたりするとな、しぜんに心も乱暴になったり下品になってしまうもんだ。」

やがてルドルフは、ブチねこのブッチーと知り合い友だちになるのですが、そのブッチーからイッパイアッテナの武勇伝を聞きます。
中でも、イッパイアッテナが野良犬たちと大立ち回りをしたときの捨て台詞は、ルドルフの心を掴んで離しませんでした。

「ねえ、イッパイアッテナ。こういうのを知ってるかい。
口ほどにもねえやろうだぜ。二度とこのへんをうろついてみろ。こんどは両耳ちょんぎって、ドラえもんみてえなツラにしてやるから、そう思え!」

そういい終わるか終わらないかのうちに、いきなり、イッパイアッテナの手がとんできた。
バッチーン。

「な、なにするんだよ。」

「なにするんだよじゃねえ、どこでそんなことば、覚えてきたんだ」

「このせりふは、あんたがいったせりふだぜ。」

-中略-

「ルド、おまえ、このごろ、ことばがきたなくなったんじゃないか。そりゃあ、おれといつもいっしょにいるから、半分はおれのせいかもしれない。でも、なんでもかんでも、おれのまねをすりゃあいいってもんじゃない。ことばを乱暴にしたり、下品にしたりするとな、しぜんに心も乱暴になったり、下品になってしまうんだ。おまえいつか家に帰りたいんだろ。飼いねこにもどりたいんだろ。そんな下品になっちゃったねこを、おまえのリエちゃんがよろこぶとでも思ってるのかよ。え、どうなんだ。」

思い出します。
中学校にあがって調子こき始めた僕が、初めて母親に向かって「お前」と言ってしまい、強烈な平手打ちを喰らった日のことを。
どうしても子供は、刺激のある言葉を使いたがりますよね。
自分が子供の頃はなんとも思いませんでしたが、いま街中で小学生ぐらいの子供が「お前殺すぞ!」と言っているのを耳にすると、たとえそれが冗談だとわかっていてもドキっとしていまいます。

言葉や表現一つで、様々な争いが起こります。
言葉や表現一つで、様々な争いをいさめられます。
それぐらい言葉というのは大事なので、ルドルフが安易に汚い言葉を使ったことが、イッパイアッテナには許せなかったんですね。
イッパイアッテナはこう続けます。

「それからな、おまえがまねしたおどしもんくはな、そうそう安っぽく使うもんじゃないし、用もないのに、軽はずみに、口に出していいってもんじゃないんだ。はったりで使ったりしてはいけないんだ。あれは、おれがいぬとわたりあったときにいったせりふだ。あいつだって、好きでノラいぬやってたわけじゃないだろう。わかるだろ、ルド。」

ぼくはだまってうなずいた。

「わかればそれでいい。ぶったりして、ほんとうに悪かったな。」

ただ怒るのではなく納得をさせ、
しっかり自分の過ちも詫びる。
子育ての本質が、ここに詰まっている気がするのです。
少し行動の遅い店員さんに、たかだか1,000円ぐらいの買い物するだけで調子こいた口を聞いてると、それを見た子供はそういう大人に育ってしまいますよ。

子供を戒めているエピソードのようで、
教育されているのは大人なのかもしれません。

「ちょっとできるようになると、それをつかって、できないやつをばかにするなんて、最低のことだ。」

ますます仲を深める二匹。
そして驚くことに、イッパイアッテナが人間の字(日本語)を読み書きできることが判明します。なんなんだこの猫!

学級文庫にしのびこんで本を読んだり、砂場で字を書いて勉強を続けるうちに、とうとうルドルフも字が書けるようになりました。
友だちのブッチーに人間の字を勉強していることをからかわれましたが、ブッチーが読めないことをいいことに、ブッチーをディスる文字を砂場に書くルドルフ!まあまあ根性悪い!

しかしそんなルドルフを、またまたイッパイアッテナが教育します。

「それからな、ルド。おまえ、このあいだの夜、字が読めないブッチーをからかっていただろう。ああいうことをしてはいけない。おれは、ああいうことをさせるために、おまえに字を教えたんじゃないからな。ちょっとできるようになると、それをつかって、できないやつをばかにするなんて、最低のねこのすることだ。教養のあるねこのやるこっちゃねえ。」

心当たりはないですか?
僕は妻に対して「こんなことも知らねえのか」と言ってしまうことが多々あり、その度に険悪な雰囲気になります。自分では意識していないのですが、おそらく言動として染み付いてしまっているんでしょうね。なんの得にもなりゃしないのに。
まあその腹いせに、洗濯物の干し方や、食器の洗い方など「こんなこともできねえのかよ」って目でしょっちゅう見られているから、おあいこですけどね!!

そんな優越感に、なんの価値も無いってことをイッパイアッテナは教えてくれます。
彼が口にする教養というのは、知識の他にも、心の持ち方を指す言葉でもあるようです。

映画『ルドルフとイッパイアッテナ』公式サイト

映画『ルドルフとイッパイアッテナ』公式サイト

「おまえといっしょにいると、心があらわれるような気持ちがするぜ」

ひょんなことからルドルフは、
自分が昔住んでいた街が「岐阜」だということを知ります。そしてとうとう商店街から岐阜行きツアーの観光バスが発車することを突き止めるのです。

いずれ来る別れを予感していたのでしょうか。
イッパイアッテナはルドルフをこう評価します。

「そりゃあ、おまえがまよいねこで、なんとなくおれと立場が似ていたから、最初はがらにもなく同情して、めんどうを見てたんだけどな。そのうち、おまえってやつが好きになってな。それで、いっしょにくらしてるってわけだ。おまえは、いつでも明るくて、ほかのやつをおしのけて、自分だけいい思いをしようってところがぜんぜんない。おまえといっしょにいると、心があらわれるような気持ちがするぜ」

イッパイアッテナからの、
ルドルフに対する率直な気持ちです。
僕はこのセリフに、児童書としてのこの作品の良さが全て詰まっていると思いました。

ここまでのストーリーで、読者の子供たちは

イッパイアッテナってすげえなー

って思うはずですよね。
知恵をしぼって食料を調達したり、ノラいぬたちと喧嘩したり、そしてルドルフを優しく教育したり。大人の我々でも「イッパイアッテナ兄貴すげえよ」って思うので、子供たちもきっとそうでしょう。

そんなすごい存在のイッパイアッテナが、明るくて正直なルドルフに、最大限の賛辞を送る。
これにより子供たちは、
明るくて正直なルドルフの性格を無意識に肯定できるのです。

子供は明るく!
子供は正直に!
ただ単に言われてもピンとこないことを、ルドルフとイッパイアッテナという二匹の交流を通して、巧みに読者に伝えていると思うのです。

「護身術っていうのは、自分の身を守るときにしか使っちゃならねえんだ」

ルドルフの岐阜への出発が迫ったある日、
ブッチーがイッパイアッテナに護身術を習いたいというやりとりがありました。
護身術というのは、ケンカと何が違うのさ、というルドルフの問いに対して、

「つまりだな、護身術もけんかのやりかたも、やることはいっしょだ。だがな、なんというか、その、つまり、精神がちがうってことだ。護身術っていうのは、自分の身を守るときにしか、使っちゃならねえんだ。そうだ、ブッチー、おめえも、そのへんのところを、よくこころえといてもらわねえとこまるぜ」

と答えるイッパイアッテナ。

自分から人を傷つけてはいけない。
ただし、自分や大切な人を守る力を持たなくてはいけない。

子供たちにはこの感覚を、なるべく小さいときに教えてあげたいと、切に思います。
有意義な学校生活を送るためにも、
大人になって社会や国政情勢を知り、それについての考えを己が導き出せるためにも、自ら人を傷つけてはいけないという真理をわかってもらいたい。
イッパイアッテナの言葉は、子供をフィルターにして、大人にも刺さります。

そしてクライマックスへ

ここからのクライマックスは、
そこらへんの小説も顔負けの、勢いと熱い友情にあふれた展開となっているので、ぜひ子供と一緒に読んでもらい、感想を分け合ってもらいたいと思います。

ここで紹介した名言はほんの一部で、全編通して素晴らしいやりとりが繰り広げられています。
冒険ものとしてもとても良くできているので、子供たちも夢中になって読むでしょう。

ちなみに余談ですが、
私が無意識に息子のお菓子(グミ)を一袋食べてしまったことがあり、それを知った息子が真っ赤な顔して、

「耳ちょんぎってドラえもんのツラみてえにしてやろうか!!!」

って僕に言ってきました。
即座に頭をひっぱたきました。
ぜんぜんイッパイアッテナの教えを守れてない(笑)

ただきっと、この作品の素晴らしさがわかる日がくる。
大人になって、この作品に戻ってくる日がくる。
そう思わせてくれる名作「ルドルフとイッパイアッテナ」は、子供に絶対読ませたい必読書ですよ!!

ルドルフとイッパイアッテナ | 斉藤 洋, 杉浦 範茂 | 本-通販 | Amazon.co.jp

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猫と人間、それぞれの愛と友情の物語。
ひょんなことから、長距離トラックで東京にきてしまった黒猫ルドルフ。土地のボス猫と出会い、このイッパイアッテナとの愉快なノラ猫生活がはじまった……。

青少年読書感想文全国コンクール課題図書/第27回講談社児童文学新人賞

映画『ルドルフとイッパイアッテナ』公式サイト

児童文学の不朽の名作、3DCGアニメで完全映画化! 映画『ルドルフとイッパイアッテナ』2016年夏ロードショー

『ルドルフとイッパイアッテナ』×ゴジラ×TOHOシネマズムービングロゴ映像 - YouTube

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2016年8月公開 公式サイト:http://www.rudolf-ippaiattena.com/ (C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会